――カットをかけないというのは、実写第一作の『紅い眼鏡』からの伝統ですね(笑)。
押井
ひとりの人間が生きてる時間を表現しなければいけないわけで、隊長は隊長室にいるときにさ、隊長の時間が流れているわけじゃない。
――はい。
押井
長回しにするというのは、いろんな理由があるんだけど、基本的にそのキャラクターの時間はカットを割るとなくなっちゃうんだよ。説明のためにカットを割るのは簡単だし、そのほうがテンポがいいかもしれないけど、肝心な時間が何も映らない。
ひとりでいる時間というのは確実に違うもので、隊長が隊長室にひとりでいる時間というのは、この映画の肝でもある。そして高畑警部、彼女と外で会ってるときも違う。隊員たちと一緒にいるときの時間もさ、全部違う時間だから。
隊長というのはいくつかの時間を棲み分けてるから、見せる顔も違う。だから映画の主役なんだよ。この映画のいろんな時間を縦に貫いているのは、実は後藤田だけだから。
――隊長室の芝居は、台詞なしで表情と身体のニュアンスだけで表す難しいところですよね。
押井
台詞のない部分をどう演じるかっていうのが、言ってみれば監督が一番欲しい部分でさ。
――なるほど。
押井
芝居がどこで終わるのかっていうのは、見せてもらおうじゃないのって(笑)。
一同
(笑)。
――物語の中盤で、明がボールを繰り返しシュートして、(塩原)佑馬が「うるさいんだよ!」とやってくる二課棟の短いシーンがありますよね。これまでの押井作品ならこの手の場面は要らないと判断した気がするんです。だけど、本作の押井守はちゃんとカメラを明の心情にも向けている。そこがいいな、と思いました。
押井
あそこをどう観るかだよね。シュートしようとボールを構えたとき、Ash(アッシュ)と文字が見える。あれが意味するところをどう観るか。
いつも言ってるように全部はわからなくていい。だけど、あの場面というのは、上に佑馬がいて、そっちのほうを一回も見るまでもなく延々とゴールを決めてるという、明の正念場のシーンだよ。だから(真野ちゃんには)好きなだけやってと言った。好きなだけ投げてもらって、回して、いいところを使うからって。そういうふうに撮る映画なんだよ。
(C)2015 HEADGEAR/「THE NEXT GENERATION -PATLABOR-」製作委員会
――今回の劇場版は役者を根拠にして撮ると決めたおかげで、結果として入りやすい部分のある映画になりましたね。
押井
お客さんは基本的にキャラクターで、人物で映画を観るからね。昔やってた世界観とか風景から映画に入っていくというのは、映画を見慣れた人間じゃないとキツイんだよ。これは人物を通してその世界を観てもらうという、基本的には「当たり前」のことをやっただけ。それが奇異に見えるとすれば、私がいままで悪かったということです(笑)。
一同
(笑)。
――押井守の新境地、と言ってもいいんじゃないでしょうか。
押井
そういうこともちゃんとやりますぜ、ということなんだよ。
――では最後に一言、観客の皆さんにメッセージをお願いできますか。
筧
そうですね。今回はとにかくロングスパンでやってきた作品ですので、我々の最終的な心意気の爆発を、この作品から感じ取っていただきたいですね。
真野
私はここで終わりたくないですね。こんなに長く携わらせていただく作品は初めてですし、たくさんの方に観ていただいて、いろんな感想を聞きたいです。特車二課というのは日常(の物語)なので、また続きがあればいいなと思います。
押井
……ちゃんとつくった。それに尽きる。ちゃんとつくった!
一同
(笑)。
――ありがとうございました。
映画『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』
全国公開中
http://patlabor-nextgeneration.com/movie/