■恋の原体験は小学4年生
――探究心旺盛で少し大人びているアオヤマくんですが、お姉さんに淡い恋心を抱いているところなど可愛らしく共感できます。アオヤマくんの描き方にも関わってくるかと思いますが、おふたりは少年時代、どんなふうに恋に目覚めたか覚えていますか?
森見
小学生のとき、僕は恋愛感情がまったく理解できませんでした。アオヤマ君のように「ほのかに好き」みたいな感情もなくて、ひとりの女の人を好きになる気持ちそのものが分からなかったです。
――アオヤマ君のようにおっぱいが気になるようなこともなく?
森見
いや、それは分かった。
石田
それは分かるんですね(笑)
森見
うん、それはギリギリ分かるんですけどね……。それと特定の女の人というのがダイレクトに結びつかなくて、バラバラだったんです。
石田
なるほど。僕はちょうどアオヤマ君と同じ10歳の頃に節目があったような気がします。そんなハッキリした感覚ではなく曖昧なものですが、クラスの異性を見て「この子って可愛いんだな」と気づくというか。見ているとなんだか得な気分になる、みたいな。
森見
あはは、得な感じ。「眼福!」みたいな。たしかに、その感覚はあったかもしれない。
石田
それが小学5年生になるとだんだん生々しくなってきて、ちょっと保健の授業で気になる言葉が出たりしたら、男子で集まって保健室の本を調べに行くんです。
森見
なるほど、第二次性徴期の助走期間みたいなものだ。生々しくなりすぎて、アオヤマ君みたいな話ではなくなりそうですね(笑)。
石田
そうなんです。だからアオヤマ君が小学4年生っていうのは、ものすごく納得なんですよ。
――少年が恋の原体験を味わうリアルな年齢なんですね。そういった少年期のリアリティを描くうえで意識されたことはありますか?
石田
たとえば、おっぱいの扱い方です。生々しくなり過ぎてはいけないけれど、アオヤマ君がおっぱいに心惹かれる感じは大切にしたい。なのでリアルとファンタジーをすり合わせていく塩梅には気を付けました。
あと、いじめっ子のスズキ君とのやり取り。スズキ君って、けっこうえげつないことをするんですよ。あんまり見ていて面白いものではないかもしれませんが、そういう毒気は重要な要素だと思い、絶対に入れたかったところです。ファミリー向けに寄りすぎても作品の良さがなくなってしまうので、そのバランスは意識しました。
森見
映画になるとどうしても視点が俯瞰になるから、より直接的に見えてしまうんでしょうね。
逆に僕が小説を書いていたときは、アオヤマ君が強すぎて困ったんです。スズキ君がどんなにひどいことをしてもアオヤマ君が動じないから、スズキ君が怖く見えなくて。
石田
スズキ君もけっこうな悪ガキなんですけどね(笑)。
――おふたりはこの映画をどんな人に見てもらいたいですか?
森見
「自分のまわりに不思議なものがあるんじゃないかと考えている子どもたちに是非見てほしいです。要するに、子どもの頃の僕に見せてあげたいんです。
僕が見たかった風景や妄想をしっかりと映像化していただいているので、あのときの僕が見たらきっと人生がゆがむくらいの衝撃を受けるでしょうね。
もちろん、大人でも不思議なものを求める感覚はあるでしょうから、大人の方にも見ていただきたいです。
石田
作っているときはターゲット層や対象年齢をそこまで考えていませんでしたが、たしかに自分も、子どもの頃にこんな映画を求めていたのかもしれません。
少年時代に見て今も心に残っている映画って、実は怖いところがあったり、大人になってからあのときは全然理解できていなかったんだと気づいたりすることが多いですが、本作もそんな感覚があると思います。原作小説を読んで「ここがステキだな」「こういう絵が見たいな」と思ったところをシンプルに映像化してつくったつもりでしたが、潜在的に好きなものって、過去からそんなに変わっていないんでしょうね。
なので、森見先生と同じで、10歳前後の僕が見たら、きっと喜んでくれそうです。
森見
子どものときの夏休みの終わりにこんな映画を見たら一生忘れないですよ。「あれはなんやったんやろう?」って、ずっと心に引っかかるはずです。