藤津亮太の恋するアニメ 第1回 人を好きになる瞬間(前編) | アニメ!アニメ!

藤津亮太の恋するアニメ 第1回 人を好きになる瞬間(前編)

[文:藤津亮太]アニメ評論家・藤津亮太さんがアニメから恋愛論を語る。異色のアニメ評論を満を持してスタート。毎月1回掲載予定。第1回は『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』

連載 藤津亮太の恋するアニメ
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藤津亮太の恋するアニメ 第1回 人を好きになる瞬間(前編)

『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』


藤津亮太:作

『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』でずいぶんと話し込むことになった。
「ねえ、これ、マジなの?」
女友達のNが、まったくわらかないという顔で尋ねてきた。アニメにたいして詳しくもないのに、僕がたまたま持っていたDVDを奪っていった上に、そんな感想を言うのも、ずいぶんと乱暴じゃないか。

『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』は'84年公開の映画だ。'82年から放送されたTVシリーズの人気を受けて制作された完全新作の劇場版で、パイロットの一条輝、アイドルのリン・ミンメイ、士官の早瀬未沙の恋愛模様と、男女同士で戦い合う戦闘種族が繰り広げ合う宇宙規模の戦争が重ね合わされる内容だ。

「真面目も真面目。公開された当時のアニメ雑誌なんかじゃ、『“映画”と呼べるアニメが登場した』と大好評だったんだよ」
そう言って、僕は「そう、先輩が言っていた」と付け加えた。さすがに僕もリアルタイムでは見ていない。
「“映画”ねぇ。たしかにすごいのかもしれないけど。……あのさあOLやってる私の友達が少し前に同棲を始めたの」
うん、と頷きながら、僕はNはいつも話がアチコチ飛ぶんだよなーと思っていた。

「その彼って優しいのは優しい人なのよ。俺の言うこと聞け、みたいなところは全然なくって。でも毎日、仕事から帰ってくると必ず『今日はご飯、何かなぁ』って言うんだって。最初のうちは、気にならなかったんだけど、彼女が忙しくてヘトヘトの時でも、時間がなくて焦っている時も、必ず言うんだって。それでついに彼女はキレて『お腹空いてるなら自分で作るか、外で食べれば。ここはあなたン家じゃないし、私はあなたのご飯係でもないし』と言ったって」
「……それはずいぶんと胸のすく啖呵だね。まるでヤクザ映画のクライマックスだ」
「ちゃかさないで。あの主人公の輝は、そういうタイプじゃない。優しいふりをして、そこにあぐらをかくタイプ? うん、そんな感じ」
あぐらねぇ。

N曰く、一番引っかかったのは、輝が未沙の魅力に気付く場面だとか。
未沙はマクロスの航空管制主任で、いわばパイロットである輝の上司みたいなもの。堅物の未沙と若手の輝は相性が悪くて、互いにいい印象を思っていない。もちろんラブストーリーにおいて「印象最悪」というのはフラグ。二人は戦闘種族ゼントラーディーの攻撃で絶滅し、死の星となった地球で1カ月、二人きりで過ごすことになる。
そこで二人が発見するのは既に滅んだ超文明種族プロトカルチャーの遺跡。プロトカルチャーは、戦闘種族たちと地球人類の誕生の鍵を握る存在だ。
遺跡の街並みで、ごく普通の家のごく普通のリビングに足を踏み入れた未沙は、壊れた食器をテーブルに並べて廃墟の中に人の営みの痕跡を見つける。調査から戻ってきた輝は、その姿を見て、堅物だと思っていた未沙の魅力に初めて気付く。空のグラスを掲げて、“ままごと”遊びのようなひとときを過ごす二人。

「仕事をバリバリやってる人間が、“ままごと”している姿を見て好きになる、というところに、輝の女性観が出てるでしょ? 『なんだかんだで、家庭的な人サイコー』って。たとえば輝は、仕事をバリバリやっている未沙に――女としてでなくとも――魅力や実力を感じていないのよね。きっと結婚したら、仕事を辞めろというタイプね。輝は。ないわー」
そうだねぇ……と曖昧な相づちをうちながら僕は考えていた。
「まあ、言いたいことはわかる」

これは二人の姉に揉まれた結果、僕が体得した、女性に反論する時には必ず付け加えることにしているフレーズだ。
「でもさ、輝は映画の中で、両親を早くになくした天涯孤独だと言ってるよね。未沙は劇中では描かれてないけど、きっと厳格な家で育ったんじゃないかな。だからきっと二人には暖かな食卓の記憶がないんだよ。暖かな食卓の記憶がない二人が、暖かな食卓があるふりをする。そういう捻りが入っているシーンとして考えれば、そんなに輝を“隠れ亭主関白”だと考えなくてもいいんじゃないかなぁ」

そして付け加えてみた。
「それに、こうやって考えてみると、輝がミンメイではなく未沙を選んだ理由も、ちゃんと説明がつくし」
「『家庭的なところが好き』なんじゃなくて『温かい食卓への憧れ』への共感があったということね。まあ、そういう見方もあるかもね……。ただ、私、思うんだけど、ミンメイと輝って結局、うまくいかなそうだなぁと思うけどね」
「ええ? それはどういうこと?」
 僕は自分で自分の声を聞いてちょっと間抜けだなと思った。
(第2回に続く)

「アニメの門チャンネル」
/http://ch.nicovideo.jp/channel/animenomon
毎月第1金曜日22時からの無料配信中
2012年9月7日22時~第1回放映

藤津亮太[アニメ評論家]
単著に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)、『チャンネルはいつもアニメ ゼロ年代アニメ時評』(NTT出版)。「渋谷アニメランド」(NHKラジオ第一 土曜22:15~)パーソナリティ。
藤津亮太の「只今徐行運転中」
/http://blog.livedoor.jp/personap21/

《animeanime》

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