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スタジオコメットの意欲作「ちゃらんぽ島の冒険」で三沢伸監督が残そうとするもの

「あにめたまご2017」よりスタジオコメットが出品する『ちゃらんぽ島の冒険』について、作品を手掛けた三沢伸監督にインタビューを行った。

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スタジオコメットの意欲作「ちゃらんぽ島の冒険」で三沢伸監督が残そうとするもの
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――「あにめたまご」は若手人材育成事業に位置づけられますが、若手原画さんたちと接してみていかがでしたか?

三沢監督
正直に申し上げると、自分は教える能力がないなあということを痛感しました……(笑)。作画というのは試行錯誤を紙の上でするものなので、言葉ではどうしても伝わらないところがある。作画に関しては描ける人にお任せして、自分は演出面を見ていたのですが、ここに難しさがあって、演出家は演出的にOKであればそのまま先に流しちゃうんです。例えばシーンを「こうしたい」と伝えたら、どう描くかはある程度作画さんにお任せ。絵を描ける監督さんなら原画用紙に修正点を描いて具体的に指示することもできるかと思いますが、僕はそうではないので言葉で伝えようとします。でも相手がピンと来なければ聞いただけになっちゃいますよね。

――たしかに。演出的な言葉を聞いても、どういう絵にするかは描く人に委ねられるので、極端な話、監督の意図を理解しないまま描くこともできてしまいますね。

三沢監督
そうなんです。今はなかなかないんですけど、昔はみんなでラッシュや初号試写を見に行ったりしたんですよ。そこで自分の描いたカットを一連の動きで確認したり、プロデューサーに感想を言われたり、小さな反省会がありました。いろいろな意見をもらって次に活かすことができた。長いTVシリーズだと声優さんの演技やギャグに作画が合わせたり、というやり取りまでありました。つまり完成した絵を見た後に自分の中に落とし込んでフィードバックをする機会があったんです。今回でいうなら作品が劇場で流れ、それを見たお客さんから感想をもらって、なるほどと実感する。その先の現場に若手原画さんの成長があるんじゃないかと思っています。

もう少し身近な視点で言うと、今回、アニメーターや監督はワンフロアに集まって作るという約束事があったので、原画さん同士でやり取りをしてもらえればいいなという思いはありました。先ほど言ったように、僕は演出的なタイミングや演技に関しては伝えられます。だけどそれ以外の、原画さんにしか分からないような、「ここは中割をいれなくても大丈夫だよ」といった技術的なことを先輩が後輩に教える、という形になってくれていたらいいなあと思っていました。


小竿P
その辺りは作画打ち合わせも日常的にやっていましたし、若手原画はカットの仕上がりを指導原画に見せて、チェックしてもらってから監督に行く、という流れができていましたから、うまくいったのではないかと思います。
また「人材育成」でいうと、毎週月曜日に若手原画の宿題の発表会をしていたんですが、途中から三沢さんの講義が発表会の後に行われるようになりました。みんな眼をキラキラさせて参加していましたね。

――講義ですか。

三沢監督
これは作画のことというより、アニメ業界の深いところを知ってもらいたいという思いから始めました。つまりはなぜ1秒は24コマでできているのか、とか、スーパーって何? とか、フェードインやオーバーラップというのはどういうところからその用語がはじまって、どういう作用を示すのかとか。アニメの業界用語は実写映画から来たものがほとんどで、それもフィルム時代に用いられたものなんですよね。今、フィルムに直接触れる人たちは少ないですから、例えば「露出」がどういう効果を持っているのかとか、数値化されたデータ以上のモノを理解するのは難しいんじゃないかと思ったんです。

――確かにカメラの構造やレンズの種類など、ベテランアニメーターさんや監督さんは熟知している方が多いですね。

三沢監督
そうなんです。ただ、これを言葉で伝えるのは難しくて、それが先ほど言った「自分には教える能力がない」という言葉に繋がるんですね。今すぐに分からなくていいから、この先続けていく中で「あいつが言ってたのって、このことか」くらいにピンと来もらえたらいいなと思いながら講義を行ってました。


――すぐに見えてくるものでもないけど、いつか掴む日が来るようにとお話しされたわけですね。作品の話題に移らせていただきたいのですが、20分強の作品にしてはカットが多い印象です。これは意図的なものでしょうか。

三沢監督
そうですね。カット数を減らして1つ1つのカットを濃密にしたいという気持ちもあったんですけど、そうするとたまたま重いカットに当たった若手原画の人にすごく負担がかかってしまうので。それでも大変なカットを受け持つことになった子はいますけどね。

――担当カットの選択は誰が決めたのですか?

三沢監督
最初に配るときに聞くんです、「どこがやりたい?」って。それをみんなに選んで取ってもらいました。カットを選ぶにしても若手原画の子の個性が出ていると思います。チャレンジ精神の必要なカットとか、地味だけどしっかりした芝居が必要なカットとか、それぞれを選ぶ子たちはそういう個性を持った子だなあと。
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《細川洋平》

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