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映画「虐殺器官」山本幸治Pインタビュー 時流の真逆を突き走る尖った映画になった

2016年2月3日に劇場公開を迎える『虐殺器官』より、プロデューサーの山本幸治氏にインタビューを敢行。現在の心境やこれまでの振り返り、プロデューサーとしての立ち方など幅広く話を訊いた。

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映画「虐殺器官」山本幸治Pインタビュー 時流の真逆を突き走る尖った映画になった
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──山本さんがお仕事をしていく中で、伊藤計劃作品にたどり着いた経緯も知りたいです。
山本
毎年開催しているノイタミナプロジェクト発表会に象徴されるのですが、ノイタミナは、斬新な企画性だったり、オリジナル作品だったり、何かしらの新機軸を打ち出さないといけないという強迫観念でやってきていました。その方法論としてテレビから映画への進出があった。それ以前にも伊藤計劃さんの小説はノイタミナのテレビの企画にも何度か上がっていましたが、特別なクオリティの作品として仕上げなくてはならないハードルの高さがあった。あるタイミングが重なって、特別な原作を特別なクオリティーの映画にすることが、攻めの戦略と合致したのです。


──昨年12月に行われたノイタミナプロジェクト発表会2017で、伊藤計劃さんの担当編集だった塩澤快浩さんが一度アニメ化の話が持ち上がったけれど実現しなかったと言っていたのは、TVシリーズではなく劇場アニメのほうが向いていると判断したから?

山本
それもあったし、僕らが過去にこの原作にアクセスした時は、原作の映像化のオプション権が他のアニメ会社にとられていたんです。で、その権利が切れて、こちらの企画として動くことになりました。

──山本さんは『虐殺器官』の物語をどう受け止めましたか。

山本
アメリカ人の話だけど日本人っぽいというか、日本のSFの特別なポジションにある作品。『All You Need Is Kill』もそうですが、日本独特の繊細さや精密さをもって世界に向かっている。『ハーモニー』のほうが顕著だけど、日本人らしい繊細な息苦しさが描かれていますよね。

──言われてみれば、主人公・クラヴィスも日本の男子大学生っぽい悩み方しますよね。

山本
そうですよね。「正しいか正しくないか」を真剣に考え、それが正解でないとわかっていても選択せざるを得ない時、苦しみながら飲み込むというよりは次第に麻痺していく感覚だと思うんですよ。でも生きづらさを感じている人たちはそうなれない。「これでいいのか?」と立ち止まってしまうのがクラヴィスであり、『ハーモニー』のトァンである。アニメっぽくいうと厨二病っていうのかな



──ちなみに、原作でいうと3作品の中ではどれが好きですか?

山本 『ハーモニー』ですね。女性が働いている姿ってとても生き生きとして、元気じゃないですか。でもどこかで男性社会に立ち続ける女性の息苦しさってあると思う。それを大人の手前で切り取ると女子高生、トァンたちなんですよね。僕も娘がいるんですけど、女の子って本当に大変だなって……(笑)。

── 一方で男性は男性の息苦しさもありますよね。

山本
そうなんですよ。男は満員電車に象徴されるようなフタのされ方がありますよね。「絶対幸せじゃないけどそれが普通だよね」という同調圧力。『虐殺器官』はフタをされたタブーに対する罪悪感と、それを崩壊させる爽快感があって、そこも日本っぽいと感じます。あとそうそう、僕はすごく嫌な奴なんです。

──嫌な奴なんですか?(笑)。

山本
学校で女の子ってグループ化しますよね。僕が小学生の頃、ジョン・ポールじゃないですけど、彼女たちの誰かに耳打ちするといがみ合ってグループの組み換えが起こるんですよ。そんな感じでイジって遊んでて……いやぁ、本当にひどい奴でした、今となっては申し訳ない。そういったことと同時に、人間ってなんて醜いんだろうと感じていたので、個人的には『ハーモニー』が心に響いているのはありますね。


──小学生ながら小狡いと同時に達観もしていますね(笑)。それはそれですごい。話を『虐殺器官』に戻しますね。完成した作品はどんなアニメーションになったと感じていますか。

山本
村瀬監督の作るアニメーションの良さは、やっぱり映画的なカッコよさ。ビジュアル面でいえば光やカメラワーク、レイアウト。お話のまとめ方も映画的で、それが合わさっていい作品になったと思います。この作品は非常に尖った方向に寄せているので入りやすいというより覚悟がいる作品ですが、見応えを求めている人ほど楽しんでもらえるはず。『君の名は。』や『この世界の片隅に』を観た人はきっと「次は何を観よう? もっと違った作品はないかな?」と思うのではと僕は信じているんですけど(笑)、ぜひそこで『虐殺器官』を観て欲しいです。

──『君の名は。』『この世界の片隅に』で胸キュンしたり感動したり、あたたかな感情が生まれたところに『虐殺器官』を観る。やさしい味付けだった料理に大量の唐辛子を投げ入れるみたいな感覚がありますね(笑)。

山本
唐辛子じゃなくてもう、針金ですよね。口の中に入れたら血が出てしまう(笑)。

──最後に、アニメ!アニメ!読者にメッセージをお願いします。

山本
『虐殺器官』は今の時流とは真逆の作品です。でもそれだからこそ価値がある作品と思っています。今を楽しく生きている人もこれを観たあとは「これでいいのだろうか」と思わず自問自答してしまうのではないでしょうか。ぜひ劇場に来てください。

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《川俣綾加》

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