日本製アニメ爆買いからはじまった 劇的に変化する中国のアニメーション産業 ~杭州アニメフェスティバルを訪ねて~第2回 | アニメ!アニメ!

日本製アニメ爆買いからはじまった 劇的に変化する中国のアニメーション産業 ~杭州アニメフェスティバルを訪ねて~第2回

[増田弘道] 杭州アニメフェスティバルを訪ねて 第2回 ■官製主導だった中国アニメーション産業■ 安く沢山つくれば海外に売れる? ■日本製アニメ爆買いからはじまった  ■台風の目となったネットと映画興行

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IPブームに沸く中国で劇的変化を遂げつつある中国のアニメーション産業
~2016杭州アニメフェスティバルを訪ねて~

[増田弘道]

■ 官製主導だった中国アニメーション産業

今回杭州のアニメフェアに参加して一番印象的だったのは、会場を別途設けたことで分かるようにB to Bのビジネスが拡大されていたことである。以前から杭州アニメフェスティバルにはその種の機能はあったのだが、正直「官製主導」の印象を拭えず形式的なものに終わっていたように見えた。一貫して民間主導で発展した日本のアニメ産業界と異なり、中国では徹底した政府主導での産業振興が行われたのである。
おそらくは中国における日本のアニメ浸透にも刺激されたのであろうが、2000年代になって急激に国産アニメーション振興が展開されるようになる。2004年、中国政府は「国産アニメ・漫画産業の制作・放映活動を支持・奨励」通達や「音像」(音楽や映像、オーディオビジュアル)分野への税金優遇の拡大を皮切りに、北京、湖南、上海にアニメーション専門の衛星チャンネルを承認、2005年には「非国有資本の文化産業の参入に関する若干規定」を公布、動画・アニメ・インターネットゲームやテレビドラマの制作・発行など文化産業における非国有資本の参入を支持、また中央財政による専門基金を設立するなど矢継ぎ早に政策を打ち出した。

そして、中国政府の極めつけの「振興政策」となったのが、2006年9月1日からスタートした17時から20時までのゴールデンタイムで外国アニメの放映禁止規制である。その後2008年5月から21時まで、2010年1月から22時迄延長されたこの措置は、海外アニメーションの8割を占めていた日本製アニメを狙い打ちしたものであり、これ以降、日本のアニメは実質的に上映、放送、発売禁止になったのである。
2006年9月以前に輸入されたものに関しては規制の対象とはならなかったものの、子どもが見る時間帯から姿を消したため、この規制以後アニメーションを見るようになった中国の子どもたちの間では日本製アニメの影響力は漸減していくのである。

■ 安く沢山つくれば海外に売れる?

2000年代半ばから中国政府はフィジカルな政策として工業団地のコンテンツ版とでも言うべき「動漫基地」の設置を強力に推し進める。何事も東京に集中する日本と異なり、国土の広い中国においてはアメリカのように地方に産業が分散する傾向があるが、北は黒竜江省から南は雲南省まで国の指導に基づき、全国17拠点に地方政府が主体となって数多くの動漫基地が誕生した。このような政府の強力な後押しのもと、中国では急激に制作量がアップし、その制作分数は2003年から2011年の9年間で何と22倍にもなった。しかしながら、これらの政策が機能したかどうかについては大いに疑問が残るところである。

実は中国政府が打ち立てた動漫振興の基本方針がどういうものかと言えば、「安く沢山つくれば海外に売れる」というものであった。中国人の知り合いからその話を聞いて筆者は思わずのけぞってしまったのだが、政府首脳は真剣だったようなのである。政府は「国産テレビアニメーション発行許可制度」(2005年)のもとで、「国家動漫生産基地」に対し年間3,000分の生産指標(ノルマ)を課し、達成できない場合は「不良基地」とみなして基地資格を剥奪、テレビアニメーション発行(放映)許可証を取り上げるという対応を取ったが、やはり工業製品的な発想でのアニメーション振興には無理があったようだ。
実際2008年から日本を上回る作品がつくられるようになっても、大ヒット言える作品は『喜羊羊』(2004年)程度で、2011年をピークとして制作分数が下降していく(表3)。それもあってか2014年から広電総局では動漫基地のデータを出すことを止めてしまったようなので、以降のグラフが作成できなくなったのであるが、5,600社のアニメーションやゲーム会社が在籍していたという動漫基地に見直しが訪れているのは間違いないであろう。

■ 日本製アニメ爆買いからはじまった

政府主導で動いていた中国のアニメーション事情が変わりはじめたのは2012年前後からであろうか。まず中国の大手ネットサイトが中心となって日本のアニメ作品の「爆買い」がはじまった。違法コンテンツの巣窟だった動画サイトに政府から指導が入ることで、日本のアニメやアメリカのドラマの版権獲得競争の幕が切って落とされたのであるが、これは海外では放送枠がなく、CDセールスも激減、違法ネットアップに悩んでいたファン向け深夜アニメにとって大きな朗報となった。
同時に2014年前後からアニメをめぐる問い合わせが怒濤のごとく押し寄せるようになった。多かったのは原作に関するもの。ヒットしたアニメ作品をネット向けにリメイクしたい、実写化したいというものから、いい原作や脚本が欲しい、企画段階だが監督やキャラクターデザイナーを紹介してくれないかといった制作が確定していないもの、さらにはスタジオ買収や法人を設立しての作品投資をしたいというものまであったが、実現に至ったものはほとんどなかった。実の所筆者の元にも、知人の中国人映画プロデューサーから『ワンピース』や『スラム・ダンク』を実写化したいので原作者を紹介して欲しいという目眩がするような頼み事があったが、このような試走期間は2年ほども続いたであろうか・・・
そのような状況が変わったのは2015年からである。ネットメディアを後ろ盾とする中国企業による日本法人の設立、スタジオ買収やアニメへの投資という話が現実化し、製作委員会への参加、中国のネット配信用のアニメを日本で制作といったことが日常的に行われるようになった。

■ 台風の目となったネットと映画興行

現在、中国で映像コンテンツをリードしているのはネットと映画興行である。少し前まで中国でマネタイズが可能な映像メディアはテレビしかなかった。ところが、放送においては既述したように審査の壁があり(全話制作が終わってからでないと最終審査が受けられない!)、それをクリアーして放映にまで持ち込んだとしても放送局から支払われる放映権料は安く、収益の中心となるべき映像商品や玩具などの二次展開市場が海賊版によって阻害されるなど、アニメーションビジネスが育ちにくい環境にあった。

こうした状況下、2010年代に入ってからネットメディアと映画市場の拡大が起こった。ネットメディアに関しては既述済みであるが、映画もまた驚くべき成長を遂げていた。
その象徴が『西遊記之聖天帰来/Monkey King: Hero is Back』である。2015年の夏休み(7月8日~)に照準を合わせて7月10日(金)公開されたこの作品は、中国製劇場アニメーションとしては未曾有のチケット売上を記録し、歴代国内アニメーション興行収入は断トツの9億5644万元(172.2億円=1元18円)となり、日本で言うならば、おそらくは『もののけ姫』のようなインパクトを映画関係者に与えたのではないかと想像される(それまでの最高記録は2011年公開の『カンフー・パンダ2』6.1億元)。そして、これ以降アニメーション映画に対する投資環境が一気によくなるのである。

ところが2016年に入って、さらに驚くような事態が待ち受けていた。当分破られることはないと思われていた『西遊記之聖天帰来』の興行記録が、1月19日に米中で同時公開された『カンフー・パンダ3』であっさり打ち破られたのである。アメリカ(1億4247万ドル=156億7177万円/1ドル=110円)を上回る興行収入10億1580万元=182億8440万円を記録、上海にあるオリエンタル・ドリームワークスの第一号作品ということもあり、さらに意気が上がったことは想像に難くない。
だが、その余韻に浸る間もなく、わずか1ヶ月半後の3月4日に公開されたディズニーの『ズートピア』がその成績を100億円近く上回る15億3029万元(275億4522万円)という大記録を打ち立てる。1年間も経たずして3回も興行記録が塗り変えられたアニメーション映画は中国において、まさに魔法のコンテンツとなったのである。先ほど述べた膨張を続けるネットメディアと未だに天井が見えない映画興行市場を軸に、アニメーションに対する投資も過熱気味の様相を呈しており、いま中国では「つくれつくれ」の大号令がかかっているのである。

第3回に続く

《animeanime》

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